ゴゴジャンTakizawa レター

ゴゴジャンTakizawa レター
ビックピクチャーとマーケットのメカニズムは車の両輪

2017年12月28日木曜日

陸王 ネアンデルタール人のマラソン戦略


            この姿で生き残れるならダーウインの進化論は間違い



クリスマスで時間が余ったので、TVJAPANで「陸王」を見た。
池井戸氏のドラマは確かにおもしろい。
日本では圧倒的存在の銀行を悪者に描き、
弱者の心を掴んでいる。

ただ以前に見た「ルーズベルト」云々も然り、
原作を読んでいないので脚本家の仕事かもしれないが、
この人のドラマは肝となる比喩に違和感。

「陸王」では、ネアンデルタール人が滅び、
ホモサピエンスが生きの残ったのは、
理想的な走り方を学んだ後者が、長距離を走れるようになり、
獲物を捕れたからという解説だった。
まさにランニングシューズのドラマのナラテイブ。

この点についての科学的定説の中で、
個人的に最も納得できるのは、体力的に優れた前者は孤立を好み、
体力が劣る後者は、社会を構築したという説。

腕力に優れても孤立しては最後は死滅する。
ただ生き残ったホモサピエンスも集団社会で喧嘩を始めた。
そのピークが第二次世界大戦だったとして、
そのあとの冷戦に勝利した米国が、
グローバリゼーションで穏健に世界を支配しようとしたのは、
ネアンデルタールに勝利したホモサピエンスの
最終完成形への挑戦だったかもしれない。

ところが、トランプ政権は、
冷戦時代までの仲間を痛めつけても、
自分の体力を増強し、あえて孤立する
ネアンデルタール人へ戻ろうとしている。

リベラルはトランプをクレージーとして決め付けるが、
トランプの戦略の本質は「陸王」のドラマ中に垣間見れた。

シリーズ中盤、陸王を履いたランナーが、一度トップに立った後、
あえて後方に下がるシーンがあった。
これがまさに今のトランプの戦略そのものだろう。

集団を従えトップを走り続ければアメリカとて疲弊する。
ブッシュがやったイラク戦争は総コストは5兆ドルだった。
バノンはこのままではアメリカはローマ帝国の二の舞となると考えた。

ならば一旦は集団の先頭を中国に譲っても、結果的にそれで中国が体力を消耗し、
中国の限界を悟った集団がバラけるころ、満を持して再び先頭に立つ。
無理をした中国は脱落するかもしれない。

ただ集団を引っ張ったアメリカが後方に下がると二番手集団は戸惑う。
アメリカは覇権の利益を捨てたわけではないが、
戦後、負担してきた政治コスト(ノブレスオブリジー)に
トランプたちビジネスマンは価値を感じない。

更に言えば、リベラルに己の限界を悟らせる効果がある。
リベラル勢力の中心のミレニアル世代は冷戦終了後しかしらない。
緩やかな秩序の中、自分本位の自由は生まれながらの権利。
こういう世界では国家の存在に感謝する機会は減る。

ならリベラル勢に思いのままリベラルをやらせてみるのもいい。
誰にも脅かされない自分本位の自由世界がこの世に存在できるかどうか。
草食動物だけでは草食動物は死滅する保守派の原則。(トランプ本人はこの限りではない)

いずれにしても、現実社会のマラソンドラマは、
道具(シューズ)改良や人間の努力より、
マネーの量というオピオイド効果で持続している状態。
最早薬なしで人類はどこまで走れるかわからない。


2017年12月9日土曜日

デカルトとパスカルの戦い,間を先取るトランプ 






rom: Osafumi Takizawa
Sent: Friday, December 08, 2017 10:06 AM
Subject: Takizawaレター < デカルトとパスカルの戦い、,間を先取るトランプ >
水曜日にシャットダウンの可能性は殆どなくなり、
逆に上下両院の減税案妥協が予想以上に難儀する状況に変わっていた。
そのあたりの政治をよく見ている債券市場は大人しい。
一方株先は案の定の乱高下。ダウチャートまだ好転していないが、
週末からCMEで先物が始まるビトコインから、ダウへ資金が流れる可能性が高い。
  
さて、トランプの選挙公約と/現状を比較してみた。(金融市場に影響があるものに限定)

1)中国の為替操作国の認定/実行せず。
2)株高はイエレンのヒラリー応援のバブル/株高は自分への正当な評価。
3)貿易赤字縮小/赤字幅拡大
4)長期債発行拡大/短気債発行の拡大(財務省政策発表)
5)移民コントロール/12月4日最高裁はトランプ政権の政策を批准(主要メディアは一切報道せず)
6)アマゾンの独禁法違反認定/アマゾンの独禁法違反の調査の意欲を示す

自分が原因のエルサレム首都宣言の喧騒をよそに、
昨日トランプは、アマゾンへ政治的に手をつけることを示唆した。
強硬派イスラエル人を喜ばすのと同じく、
より雇用を生み出す旧来型リテールの宿敵を口撃することで、
2020年へ向けて弾みをつけたいところ。(雇用創出のために頑張る自分を演出)
ただしもちろん狙い発表効果だけ。(エルサレム宣言も同じ)
もし本気でアマゾンを痛めつければ、
自画自賛の株が暴落することは承知している。

ところで、昨日の民主党上院議員のアル・フランケン氏の辞任会見、
最後、"自分は潔く辞めるのだから、大統領、あなたも責任を取りなさい” と結んだ。

辞任のきっかけとなったセクハラは、
彼が上院議員になる前のコメデイアン時代のものだ。
普通に考えれば、これで責任を取るのは可哀想。
だが民主党は仲間を犠牲にした。

まるで新撰組の強制切腹だが、(或いは相撲協会と横綱審議会)
狙いは来週火曜日、アラバマで勝利が予想されるロイムーア氏と、
究極的には、選挙戦末期、全く同じセクハラが暴露されたトランプ本人。

トランプを追い込むには「過去のセクハラ」が
「今の処罰」の対象になる世論を形勢をするしかない。
コーク兄弟に買われる前のTIME誌も応援している。(今年の顔)

ただ、個人的には、クリントン大統領時代に生まれたリムジン系民主党は、
ここまで経済格差が拡大したにもかかわらず、
完全に戦う武器を見失っている状態に見える。

まさに経済で自分たちがすべきリベラル政策(金融緩和)で、
第二次安倍政権に先を越されてしまった旧民主党と同じ。
彼らに残されたのは、過剰なコレクトネスへの傾斜。

前日のレターで1973年の最高裁判決から、(Roe v. Wade)
民主党は、それまで ウイルソン FDR ケネディー ジョンソンとつないだ
経済貧困者救済の党是を変更、人権(女性とマイノリテイーの権利)と
ポリテイカルコレクトネスに移したことを紹介した。

カーターとデュカキスはそれで大統領選を戦ったが、
然程良い結果にはならず、(カーターは一期だけ、 デュカキスはパパブッシュに敗北)
テーマを経済政策に戻したのはビルクリントンだった。

ただ冷戦に勝ったことによるクリントンのグローバリゼーションは、
主に都会のサービス業を潤したのみ。平和的アメリカの一国支配が固まる中
主要メディアとリベラルエリートは、更に人権とコレクトネスへ舵を切った。

この時代に大人になった都会のミレニアル。彼らはそのまま民主党支持者になったが、
人権やポリテイテイチカルコレクトネスを言う余裕のない取り残された白人労働者は
民主党を離れた。特にリーマンショック後の回復で、ますます地方は取り残された。

これがバノンが高笑いしている実情だが、
理想を掲げ、その実現に向けて努力することが正しいと考えるリベラルエリートと、
一方人間の能力の限界を知り、自然の摂理に逆らわない保守の原則は、
まさにデカルトとパスカルの違いを感じさせる。

そして政治的にこの二つのイデオロギー両方を利用したのがニクソンだった。
だが彼は「良いとこ取り」に反感をもった仲間の共和党の離反を食い止められず、
最後は後のアメリカへ貢献を考えれば取るにたらない小さなミスで失脚した。

トランプの取り巻きはニクソンの失敗を研究している。
今のところ常に先手を打っている。